更生保護活動に立ちはだかる家庭崩壊

わたしは更生保護、すなわち犯罪を犯した人たちをもう一度社会でしっかりと生きていけるように立ち直らせるお手伝いをする「保護司」というしごとをボランティアで務めています。7~8月はその強調月間、全国レベルで「社会を明るくする運動」を展開し、奈良でも市内をパレードしたり、コンサートを開催したりと一般市民にも更生保護活動へのご理解やご協力をいただくべくキャンペーンを行っております。

 保護司の日常的な活動は保護の対象となっている人と月に1~2回面接をし社会復帰させるための助言や指導を行ない保護観察官という方に報告することであります。わたしはこれまで何人もの人たちと接してまいりましたが、人を導くなどという仕事はとてもできないなと挫折感を味わったり、限界を感じたりもしました。また、社会の縮図をみているようで勉強にもなります。守秘義務がありますので個々のケースを詳しくのべることはできませんが、いままで担当した人はほとんど17~18の少年であります。万引き、傷害、麻薬などの犯罪を犯した人であります。いまも万引きで捕まった18歳の少年A君を担当しています。彼らに共通しているのは、家庭崩壊、とくに両親の不和か離婚であります。保護司という仕事を通して家庭崩壊と向き合うむずかしさを実感しています。つい先日大和郡山市で起こった父親殺しも、父と母の離婚が少年のこころに大きな傷を落としたことが遠因となっているようであります。いまわたしが担当しているA君も小学生のとき両親が離婚、そのうえ彼は幼児期に母親から虐待を受けて育ったようです。母親と二人きりの生活ですが会話もない乾いた砂漠でいきているように見えます。はじめ彼は保護司であるわたしと会うことも拒否、会ってもほとんど口をきいてくれませんでした。こちらから何かいうと無気力な声で「ハイ」と答えるだけでした。母親の姿勢を改めさせないとと母にもなんどかお会いしました。この母も小さいとき母から虐待を受けて育ち、なぜか子供に手をかけるようになったといいます。最近言いにくいことをお互いメールでやり取りするようになってきたようです。A君はわたしにも少しずついろいろなことを話してくれるようになってきました。年上の彼女がいること、派遣社員として少し収入がはいるようになったこと、パチンコやスロットで小遣い稼ぎをしていることなどです。わたしはもう少し安定した職につけるように努力しろとかお母さんと話し合いなさいなどと言っております。最近、他の人からA君が「保護司のオッサンな、堅い人やけどメッチャ優しいね。」と言ってるということが聞こえてきました。彼はこれまでほとんど愛に飢えた人生を歩んできたのだと思います。愛されたことがない人間ほど不幸なことはありません。A君の場合人間不信にもつながっていたように思います。わたしは彼が母親との絆を少しずつかたいものにして欲しいと思うと同時に社会人として生きてゆけることをこころから願い自分の息子のような気持ちで接しています。誕生日にはおめでとうとレタックスを届けました。だんだんと彼のこころが氷がとけるようにジワッとひらかれてくるのがわかります。

わたしは5年ほど前、衆議院法務委員会の理事をしておりまして「犯罪を犯した人の再犯率が職のある無しによって5倍の開きがある、犯罪を犯した人がもう一度人生のやり直しができるチャンスを与えるために仕事につけるようにすることが大事だ。」と知りました。翌年厚生労働省の役職を与えられたので、まだ刑務所に入っているが仮釈放まじかの人に職業斡旋ができるようなしくみを作りました。法務省と厚生労働省と役所が違いますから縦割りの弊害でこれまでこんな協力は考えられないことでした。しかしこういう努力をしていても日本経済が下降線をたどり雇用問題が深刻になっていることから一度犯罪を犯した人を雇ってやろうという企業が少なくなってきているのが現状です。

犯罪を犯した人も生まれたときからの悪人ではありません。幼児期における環境によってすなわち親の生き方によって子供は左右されるのです。まさに本会で学ぶ「子供の善導は親の倫理実践から」であります。一度犯した過ちからもう一度立ち上がれるようなぬくもりのある社会環境をととのえてあげることも大事だと思います。それが犯罪のない明るい社会つくり運動の目的でありましょう。

先日、奈良市内のある中学校へ伺ったとき、先生から「片親だけの家庭が多くなりました。生徒のなかに正月元旦の朝8時頃コンビニでパン買って食べてる子見ました。普通ならお雑煮をみんなで祝う時間でしょう。涙こぼれてきました。この子の家は母子家庭で母がスナックで働き子供ほったらかしですわ。」という話を聞かされました。愛に飢えてる子供が大勢いることを忘れてはならないと思います。

保護司をやらせていただいて一番思うこと、それは「夫婦の離婚の理由には、いろいろあるでしょうから離婚した人をすべて悪く言う気持ちはありませんが、できることなら子供のことを考えて思いとどまって欲しい、そして少なくとも子供の前では夫婦仲良く振舞うこと、特に子供が小さい間は親が仲たがいをしていることがどれほど子供のこころを傷つけているかを自覚して欲しい。」であります。

                      平成20年7月7日 記