金子直吉という人に会いたかった

石田梅岩の商人道徳を学ぶ「心学明誠舎」で、あの「鈴木商店」の大番頭であった金子直吉について経営史研究家大塚融さんの講演を聴くことができた。かねて玉岡かおるさんの小説「お家さん」を読んでこんな凄い人物がいたのかと強い印象を受けていたから楽しみにしていた。

丁稚奉公から身を立て「お家さん」鈴木よねを崇敬しつつ三井・三菱と並び称されるほどの大企業にのし上げた才覚も凄いが、昭和恐慌の象徴的倒産に追いやられても金子は債権者に恨まれることもなくいまもなお多くの人たちに慕われていることが驚きである。鈴木商店がつぶれてからも、その系列にある双日・神戸製鋼・帝人などのOB会が連綿と続き金子翁を慕っているという。倒産しても解雇した社員の就職先を世話するために頭を下げて回り、私生活は借家住まいの質素なもの、債権者にも詫びて回り「責任は全部俺がかぶる。自殺しないのもそのためだ」と言ったそうだ。ところが、超拡大主義者で守ることが不得手だったのと東京を拠点とする三井・三菱は政治と一体だったが、地方都市神戸の鈴木は倒産の憂き目をみることになったのだろうという話もあった。「従業員を大事にすること、私利私欲がないこと」、社員はできる限り安い給料で働かせ社長やその家族は派手な暮らしぶりという風景をよく見聞きするだけに今は亡き金子直吉さんに会ってみたい気持ちになった。

3月30日、奈良パークホテルと共催で「日本一幸せな従業員をつくる!~ホテルアソシア名古屋ターミナルの挑戦~」というドキュメンタリー映画を我がNPO法人きみかげの森が上映することが決まった。これも多くの人に観てもらいたい。

今も昔も素晴らしい日本人がいるものだ。