橋田壽賀子著「夫婦の格式」

本棚を整理していると橋田壽賀子著「夫婦の格式」が目に留まりもう一度読み返すことになった。さすが、「隣の芝生」や「おしん」の脚本を手がけた人であっただけに文章が躍っていて実におもしろい。40歳を超えてから年下のTBSのプロデューサーと結婚、そのご主人も20年前に亡くなられているが、結婚生活を赤裸々に吐き出し夫婦のあり方を書いている。

「主人なんか帰るコールどころか、毎日、きちんと帰ってくるには帰ってきましたが、午前様ばかり。だいたいが、新婚旅行の初日から朝帰りだった人ですから。美味しいものを食べてもらおうと思って、食卓いっぱいにつくって帰りを待っていても、みんな無駄。

十時も回れば、どこかで事故にでも遭っているんじゃないかしら、と胸が騒ぐ。それを日が変わって飲んだくれての朝帰り。その口惜しさが男にはわからないのですね。電話一本ですむことなのに、どうしてやらないのでしょう。男の心遣い一つで、女もやさしくなれるというのに、夫婦はお互いさまではないですか。」

「『今日は子供がいないから、お茶漬けにしときましょ』男をなんと思っているのか、勘違いも甚だしい。亭主ではなく、子供を主人にしてしまっている。そんな風にされて、男よ、強くなれ、と言われてもなれるものではありません。いま家庭に父親不在なのは、母親が言葉で夫を殺してしまっているから。その言葉の夫殺しを子供がそばで見ている。恐ろしい話です。」

「欲しいのは宝石より言葉、女房のちょっとした行為にもありがとう、で応えてあげる。それだけで、ああこのひとはわたしのことを見てくれているんだ、と感じることができる。男がプライドの生き物だとすれば、女は、いつまでも見つめていてほしい生き物なのです。『そんなこと、いわなくてもわかるだろう』男のそれが一番いけません。」

「愛する人より先に逝かない、これは究極の愛だと思います。だって男一人を残してはかわいそうでしょう。女房より後に残って新しい女といっしょになるという手もあるかもしれませんが、そんな甲斐性があればとっくの昔に古女房なんか棄てていますからね。」

我が家は、結婚してもうすぐ44年目を迎える。家内にもこの本を読んでご覧と言って渡した。夫婦どちらも考えさせられる中身だけに「感想は?」というと「ウーン」と唸っていた。