近畿日本鉄道株式会社山口昌紀会長の講演を聴いて

奈良県とは切っても切れない大企業といえば近畿日本鉄道株式会社、その会長である山口昌紀氏の講演を聴く機会を得た。私もこれまでずいぶんお世話になってきたが、近鉄に50年以上奉職し文字通り牽引車となって走ってこられた方だけに興味深い話や初めて知る苦労話などもあって大変勉強になった。

「近鉄は公益を第一義とし、国家社会のためにあることを入社以来教えられてきた、特に、大和や伊勢をテリトリーとしているので文化や地域住民とともに生きてゆくことを大事にしている。」とおっしゃり、若い頃からのサラリーマン経験を披露された。その中で、『近鉄中興の祖』といわれた佐伯社長に秘書として仕えた人だけに佐伯さんにまつわるお話が多かった。

「自分がまだ新入社員の頃、伊勢湾台風が名古屋周辺を襲い、名古屋線のレールが全部流された。そのとき佐伯社長は海外出張中であったが、『被災社員の救済は前例にかかわらず徹底すべし』という電報が入り、社長はレールの復旧よりもまず社員のことを考えてくださっているというので社員が皆発奮した。」

「自分が取締役に昇進したとき、佐伯さんから呼ばれて『将来君が会社を背負う立場にになってもしも会社が困窮するようなことが起こっても社員の首切りだけはやめといてくれ。給料が半分になっても首だけは切るなよ』と言われた。」

山口さんが社長になられてからもいろんな苦労があったようだ。「自分が社長の時近鉄バファローズを売った。野球は好きだが、日々沿線住民の皆さんに払ってもらっている細かい電車賃を球団維持のために使っていいのか自問自答しながら決断した。」

財団法人松伯美術館をつくられたときのエピソード、また小沢征爾さんが奈良にオーケストラを作って本拠地にしたいという話があったのに資金の関係で断念ことは悔いが残る等・・・・赤裸々にお話された姿勢に好感が持てた。また、近鉄は「堅実・進取」を尊び「百姓の文化を体現している田舎の会社だ」と謙遜しながらおっしゃった。

あとの懇親会で山口会長と少し言葉を交わすことができたが、TPP参加問題で全く考えが同じだったので嬉しかった。反対ばかり唱えている政治家も、農政改革についてもう少し勉強してほしい。