田舎暮らしと政治

 先日墓参りの前に掃除に行くと(私の田舎はいまも大体土葬なので)平成4年に亡くなった父の墓標が根っこが腐って倒れていた。18年経つとこうなるのかと思いつつも、生前の父の姿が浮かんできてたまらなくなった。背丈近い墓標には墨で書かれた父の名前や戒名がまだ読み取れた。下に眠っている父に「ごめんな」と言って、竹の棒と手で穴を掘りもう一度墓標をしっかりと立て直した。

  母は父の死後丸9年間都祁で一人暮らし、ゲートボールの仲間に加えてもらったり、友達とともに俳句を生甲斐にしていたから私たちと都会で住むのは嫌がったが、今私も都祁で田舎暮らしをしていると「この寒いところで母は一人淋しい思いを誰にこぼすことなく耐えていたのだなあ」としみじみ思う。

  一昨日、読売新聞特別編集委員の橋本五郎氏の講演で、秋田県の過疎の町で育った生い立ちからこのたびの巨大地震や今の政治に触れつつ16年前81歳で他界されたオフクロさんについて話された。5男1女の子供を育て(橋本氏が大学卒業後1年してお父さんが亡くなっているので)ずいぶん永い間田舎で一人暮らしをなさっていたようだ。お母さんの遺書には「悔いも未練もない。幸せすぎてもったいないくらいだ。」と書いてあったそうだが、橋本氏は「何度一緒に住みたいと思ったかわからない、でもできなかった。田舎では働く場が無くて家族を養っていけないからだ」という。続けて氏は、「一人暮らしに耐えてる人達を大事にする政治が行われてきたか?口では地方が地方がというが、みんな都会のことばかり考えている。歴代の総理や実力者と言われる人達をみれば小泉、安倍、福田、麻生、鳩山、小沢、菅など皆地方に選挙区を持っているが、都会で生まれ都会で育っている。こんな人達に田舎で腰を曲げて野良仕事をしている人達の気持ちがわかるはずがない。事業仕分けは一見評判が良いが疑問あり、田舎はいらないという話だ」

 私には都会にも都会の良さがあることは充分わかる、4半世紀も東京にいたんだから、だけど東京は所詮田舎者の集まり場所、都会にばかり目を向けて田舎を疎かにしたらバチがあたるよ。

 橋本氏のお話で、一層意を強くして田舎の山や田畑と向き合って残りの人生を全うしたいと思う。きっと両親もあの世から見守っていてくれるだろう。